(経緯)
- 一部借地権の付着した土地を資金化したいA地主から短期間に権利関係を調整し、更地化して売却して欲しいという依頼を受けることになりました。
- 地主の所有する土地は現況B土地(第三者所有)と一体として時間貸駐車場として活用されています。
- A土地と借地権が付着したA'土地の合計面積は233m²です。
- 市場調査の結果、A+A'が一体の更地であれば、ワンルームマンション用地として購入したい、と言う業者がでてきました。
A'地を賃借する借地人の状況
- 数年前に借地人に相続が発生していますが、建物の相続登記はなされておらず、また賃貸借契約書も締結していないため、借地人の数は特定できませんが、複数人(5,6人)存在しているようです。
- 建物に誰が居住しているか不明です。
- 地代は半年分を年2回地主宅へ持参払いしているとのことです。
- 地主の計算では地代が累計2年分程(約120万円)遅滞しています。
- これまで差配を通じ土地の明渡しや底地と借地権の同時売却の交渉をしてきましたが金額が折り合わなかったり、借地人の意見統一問題?により断念しています。
- 借地契約書はありませんが、賃貸借面積は地主の台帳では83m²(25坪)となっています。
A'地を訪問
昼間は建物に誰もいません。夜に訪問しても部屋の中からはランプの薄灯りがもれていますが誰も出てきません。その後早朝に訪問しても誰も出てきません。電話・置手紙等考えられる手段を試みますが一切の連絡がとれません。近隣の聞き込みでは2名が居住しているようです。
このことを地主へ報告し、一度地主から連絡を試みていただくように御願いしましたが、地主は連絡したくない様子でした。
B地との関係
B地の土地所有者は従前A+B地全体の借地権者であり、事業を行っていました。
廃業時に当時の差配へ相談したところ、借地権と底地を交換(50:50)して双方が完全所有権とした上で、共同事業にて時間貸し駐車場を行うことになったそうです。
A地もB地も単独では利用困難な土地となることから、差配はB地の所有者(旧借地人)へは売却等する場合は事前に協議することを告げていたとのことです。しかしA地主へは特段の説明はしていませんでした。
資金が必要な地主から現況にて購入
従前の差配へこれまでの地主と借地人の経緯を確認すると、地主が借地権の買い取り協議をしたが金銭的な折り合いが付かなかったことが判明しました。したがって地主に対して、地主が見積もる借地権の買い取り金額では調整が困難であり、A'借地人との調整は長期化すると判断する旨の報告をしました。
すると地主は最初からわかっているような口振りでした。
そこで早急に換金化したいのであれば、B地と同時売却すべきことを提案しました。しかし地主はA'の不良賃借人が残ることがいやなようで、少し値引くから現況のまま底地を購入して欲しい旨の逆提案がありました。
結局、借地人へ無断(通知等)で現況のまま当社がA地を購入することになりました。
借地人との交渉
購入後、A'借地人へ挨拶に行きますがなかなか捕まらず、近隣、昔の差配等聞き込みの結果、他の居住地の連絡先がわかりました。しかし、電話をしてもいつも留守番電話で連絡がとれません。その居住地へ直接訪問し、数回目の夜に借地人の相続人の一人とやっと会うことが出来ました。
相続人は6人であり、対象地(A')へは相続人のうち2名と猫数十匹が同居して、電話はもちろん電気・ガス、水道も停止状態であることが判明しました。
相続人の内、現金が欲しいものがいたため、この者を中心に約4カ月の交渉を重ねた後に借地権を購入し、建物を明け渡してもらいました。建物に根抵当権が付着していたため、一旦相続登記を行った後に根抵当権を抹消し、同時に建物滅失登記を申請しました。
購入の当日に建物に入りましたが、昼日中というのに建物内は真っ暗であり、懐中電灯を当てると猫の目が一斉に光り、新たな侵入者に驚愕した様子でした。当方は猫以上に驚きました。まさか、こんなところに人間が長年、居住できるとは想像もできませんでした。建物の解体が翌日から始まりましたが、数多くの建物解体を手がけている専門家から「この建物はいつから人が住まなくなったのか」という質問を受けたほどの状態でした。
解体は滞り無く完了し、更地になって、無事にデベロッパーに地を引渡しました。
あとは建物の完成を待つばかりでしたが、何とリーマンショックの煽りを受けて、東証一部に上場していたデベロッパーは倒産してしまいました。地元の不動産業者に聞いた話では、建設会社が土地を買い取って、自ら分譲したとのことです。最後まで苦労が絶えなかった事例でした。