事例2:囲繞地と化した底地・借地を隣接地と併せて戸建て分譲地に

相続発生後の案件について、相続税納税コンサルティング会社の代表者から、「底地・借地権の整理についてある問題があり、このままでは、委任者の要望を満たせないため手伝って欲しい」との依頼がありました。この物件のオーナーは相続によって取得した土地を全て換金化するために相続税納税コンサルティング会社へ依頼していました。

物件の概要

当該物件を含む一団地の土地は、相続によって2名の兄妹が取得しています。
2名の兄妹はそれぞれ弁護士を立てて分割協議を2年ほど争い、物件のA,Cを含めその東側を妹が取得、Bを含め西側を兄が相続することになりました。

相続税は申告期限内に現金で一括納付しています。兄妹の意向は以下のとおりです。

妹の意向:底地は収益性が低く、できる限り整理してもらいたい。

兄の意向:たとえ収益が低いと言っても、この低金利のもとでうまい運用ができるわけでもないので、できるだけ土地を売却せず保有し続けたい。

(問題点1)

妹が相続したA貸地は単独では再建築できない囲繞地となっていることから、接道条件を整備してもらえなければ、A地の賃借人は底地を購入できません。
A地の接道条件を満たすためにA地に隣接するC、D、E地も整理できていません。

(問題点2)

B貸地は売却を希望していない兄が相続していますので、当該地を巻き込んだ整理が困難です。
また、A貸地は兄が分割協議において「A地の借地人が使用しているガス・下水道の埋設管がB地を通っているため、自分が相続すべき」と主張した土地であるため、特に調整が難しいと思われます。

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借地人との交渉

同じ地主であるC、D、E地の借地人へ意向の確認をしました。C地については、敷地の一部売却を含め底地と借地の同時売却の依頼をしましたが、建物は新築後まだ数年経過した状態で、建物と境界が50cmの幅員という状況です。D地についてもC地との境界ぎりぎりに建物が建築されている状況であり、C、D地の借地人との交渉を断念しました。

E地の場合、敷地の形状等の関係から底地と同時に借地権を売却してもらう以外に方法ありません。借地人は一人暮らしの高齢者でしたので、独立している子供を交えて数回の打ち合わせを行いました。本人が"元気なうちは現在の土地で生活して、その後は同時に売却しましょう"と回答しましたので、これ以上交渉を継続しても好転は難しいと判断しました。よって妹の所有地の整理が困難な状況となりました。

まず、地主(兄)の所へ行く前に、借地人の意向を調査するためにB地の借地人を訪問しました。
B地は、現況で建物の壁面まで2m分の通路を確保できそうな状況であり、借地の一部を譲渡していただく旨の相談を持ちかけました。
ところが、それはとんでもない話であることが判明しました。"元々はA賃借人とD賃借人は親戚であり、A賃借人はD地を通行に使用していましたが、D賃借人の再建築で通路の使用ができなくなり、B賃借人は仕方なくA賃借人にB地を通行させていました。しかし、その後関係が悪化し、A地とB地の間に塀を設置し、通行できないようにした経緯がある。"とのことでした。
この時点で、解決は不能かと考えました。

ところがよくよく話しを聞くと、B土地の賃借人は底地を地主から取得して所有権にしたいとの意向があることがわかりました。そして、底地の購入後は問題となるA地使用者の埋設管を撤去するようにとの要望もありました。

数回の訪問によって、B土地の賃借人との信頼関係を築き、底地購入の意図を聞くことができました。現在、定年後70歳前後の初老夫婦は、子供が独立して当該地へ戻る予定がなく、広い家を毎日掃除するのも大変と話しました。数年後は売却して、高齢者マンション等に移りたいと思い、将来の売却を考慮して、底地を一旦購入して今のうちに完全所有権にしておこうという考えを持っていました。

問題の解決

(B借地人との交渉)

当社はB借地人に以下の話しをしました。

「B敷地の地主は基本的に底地を売却しない方針を持っています。またもし底地を取得できたとしても、取得時には不動産取得税や登録免許税等の多額の経費がかかります。地主が底地を売却しない場合は、将来借地権で売却することになります。借地権単独での売却だと○○円ぐらいにしかなりません。もし、今より高齢になってから売却されるのであれば、元気な状況の今移られる方が宜しいのではないですか?今売却の決断をされるであれば、地主に事情を説明して、底地と借地権の同時売却をできるように地主との交渉をいたします」

B借地人との交渉のポイントは以下のとおりです。

  • 借地権と底地を同時に完全所有権にすることで売却価格の減価要因をなくす
  • 一旦底地を購入する余分な経費が不要となる

数日後、B借地人より、厄介な地主との交渉を依頼したいとの返事を頂戴しました。

(地主との交渉)

相続で取得した土地を一筆も売却したことのない地主であり、現況では売却により金銭を得たいとの希望もないようでしたので、少し時間をかけて理解をしていただこうと考えました。
地主にB貸地の売却を打診したところ、地主の反応は予想通りでした。貸宅地の管理は大変であるが、やっとの思いで株の売却によって相続税を納めたのに、また土地を売却して譲渡税を払いたくないと回答しました。しかし、相続時の色々なお話を伺うことができ、次回の交渉戦略へ収穫を得ることができました。

事前に当該地の相続税と売却時の時価を調査して再度面談しました。底地の相続税評価に対して、売却時の時価は150%の評価となります。この価格で売却できれば、長期譲渡税等(20%)が掛かっても、相続税評価以上の手取りがあります。それだけではなく、相続申告後3年を経過しておらず、相続財産の大半が不動産であったために、相続税を支払うために相続不動産を譲渡した際に使用できる取得費加算の特例を適用できますので、計算すると20%の譲渡税も掛からず、150%の評価相当額が丸ごと手許に残ることを説明しました。
数字に強い地主はこのことを即座に理解され、当該地を限定として取得費加算を利用できる期間内の残り4カ月以内で売却することを条件にB貸地を売却することに同意しました。

(B借地人と再交渉)

B借地人へ地主は条件付きで売却することに同意したことを報告しました。B借地人は前回の面談以降すぐに売却することを悩んでいましたが、期間限定の条件を説明し、借地権単独で売却する場合と底地を同時に売却する場合の譲渡価格の差を説明したところ、同時売却で進めることで合意を得ました。併せて、当該地のみでは地形が悪く、売却価格をよりアップさせるため、隣接地Aも同時に売却となる可能性があることを説明し、了解していただきました。
無道路地であるA地との価格の違いの問題はあったが、お互いのメリットのために同額とすることで承諾を得ました。

(A地の地主・借地人)

この結果を踏まえ、A地地主と借地人へ問題解決のために売却する事を説明しました。しかし地主は兄妹仲が悪く、A賃借人もB賃借人を一切信用していないため、同時にことを起こすことを嫌っていました。そこで、多少のリスクを抱えるものの、現状のままA地の借地権と底地を第三者に購入していただき、B地の売却と同時にA地も売却する事となりました。

結果

A地とB地を戸建て分譲業者が購入し、購入後に3階建ての瀟洒な戸建て住宅が建ち、直ぐに5棟が完売しました。A地、B地の利害関係者は当初の想定以上の売却金額を手にすることができ、全員が満足する結果となりました。当該地はこの戸建て住宅が出来たことによって、雰囲気が良くなり、近隣に居住しているB地の地主にもとても喜んでいただきました。

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