事例3:相続が心配な地主の底地と飲食業の入る店舗(貸家建付借地権)の同時整理

A貸地の地主は高齢であり、そろそろ相続の準備(相続税納税)のため各貸宅地について物納条件を整備して欲しいとの依頼がありました。当社は依頼を受けて、各借地人と面談して主旨を説明し、面談後に問題点を整理していきました。

当該借地人は高齢の単身世帯で法定相続人がいません。地代も安く物納水準を達成するには値上げが必要ですが、高齢である借地人は入退院を繰り返していて、地主より先に相続が発生するかもしれない状態でした。
居宅以外の2棟の建物は30年以上も前から現賃借人へ店舗として賃貸している状況で、借地人が長期不在のときはテナントである借家人が代わりに地主に地代を支払っていました。そのため借家人は自身を借地人であるという程度の感覚を持っていました。

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A借地人に相続が発生すると財産が国に帰属(一定期間相続財産管理人:弁護士)することとなり、建物(借地権付)が公売になれば、より複雑な状況となり、A地の底地を納税原資とできなくなる可能性が高くなることを地主に報告しました。A地主は生前中に権利関係を整理し、A地を売却するという方針を持ちました。
また、B地の借地人は既に相続が発生して遺産分割について相続人4名が協議をおこなっている状況でした。当該地は建築基準法上の道路に無接道のため、B貸地単独では物納も売却も困難であり、地主には問題の財産でした。

A借地人と面談し本人の意向を確認したところ、借地権を換金化して療養型高齢者施設へ入所したいとの回答を得ました。

今後の手続きおよびテナントの立ち退き交渉がでてくることから、弁護士を代理人としてたてていただくことになりました。

テナントとの立ち退き交渉については、A借地人の代理人である弁護士が引き受け、数回交渉しましたが、弁護士の専門分野は交通事故の処理であったためか交渉は難航し、先に進みませんでした。テナントの立ち退きには多額の費用がかかり、借地人側にはそれを負担する資力がありませんでしたので、底地と借地権の同時売却は難しいことがわかりました。結局、現況のまま借地権付建物を地主が買い取り、地主側で立ち退き交渉を行うことになり、当社が担当いたしました。

B借地人には法定相続人4名による建物の相続登記を実施していただいた後に、いったん地主に借地権を買い取っていただきました。A地とともにデベロッパーに売却することをもくろむためです。地形は悪くなりますが、一定の容積率が確保できることからデベロッパーもA地と一体として取得する意欲がありました。

この段階で危惧していたとおり、A借地人が病に臥して入院をすることとなりました。

A地の借家人も交渉に代理人を立ててきました。当初は借地権の50%相当額の要求をしてきましたが、このまま相続が発生し借地権を国が取得または公売となった場合(この時点では地主が借地人と借地権付き建物の売買契約を締結していませんでした)のリスクや借家人の営業利益がそんなに大きくないことを指摘し、借地権価格の30%相当額の立ち退き料を支払うことで合意をえることができました。

借家人と立ち退き合意書の結後にA借地人と借地権について売買契約締結(手付)をしました。A借地人は病院に入院しており、代理人の弁護士立ち会いの元で、病院で契約を締結したのですが、やつれた感じではありましたが、自身で歩行できる状態でした。

A地とB地(所有権)の売買契約を地主とデベロッパーが締結しました。

何と1週間後にA借地人は突然、逝去してしまいました。代理人である弁護士から電話連絡がありました。借地権付き建物の売買契約による建物引渡の履行に関して尋ねると、自身が相続財産管理人になるので、履行に支障はない旨の回答を得ました。

代理人弁護士が相続財産管理人の申請をしました。

A借地人の代わりに地主がテナントの立ち退きを確認し、立ち退き料を支払いました。

A借地人の代理人が相続財産管理人に選任される期間が長く、デベロッパーへとの決済期日までに間に合わないことから、選任される前に借地権付き建物の売買残代金を法務局に供託(相続人不確知)して、代理人へ預けていた登記委任状にて建物移転登記を行いました。

その後、建物を取り壊しましたが、A借地人は某大学の薬学部の教授をしていた関係で、正体不明の複数の薬品が検出され、そのための処理費として100万円以上かかってしまいました。

建物を解体して更地としてデベロッパーに引き渡しました。デベロッパーは、マンション建設の着工までの間、当該地を時間貸し駐車場業者に一括貸ししました。すると、当該地内に古井戸があったようで、土地の一部が陥没してしまい、車が破損するという事故が発生するというおまけがつきました。

やがてマンション建設の工事が完成し、デベロッパーが分譲をしたところ、竣工前に完売するという人気物件となりました。

様々なことがあった事例ですが、結果的には利害関係者全員が満足した結果となりました。
マンションが竣工してまもなく、地主に相続が発生しましたが、50箇所以上の貸地を相続前に整備していたことから、貸地を物納及び売却することによって相続税の納税を無事に完了することができ、地主の相続人から感謝の言葉をいただきました。