相続税の納付は金銭による一括納付が大原則です。しかし、一括で納付できない場合には延納による分割納付や相続財産の物納という制度を認めています。納付方法の順位は①現金(金銭による一括納付) ②延納 ③物納と なります。
では、延納や物納を選択する場合には、納税者が恣意的にその額を決められるのでしょうか? 残念ながら、回答は決められないということです。延納や物納申請をする際には、金銭納付を困難とする理由書の提出を義務づけられています。
この理由書のA,B,C,D,E欄にご注目ください。
A欄は物納を申請したい者が支払うべき相続税額です。
B欄は納付期限までに用意することができる(用意できると計算される)現金の額です。B欄の額は裏面の欄を埋めると自動的に計算されることになります。相続税納付資金は相続財産の中から捻出すれば良いという考えを持つ方がいますが、B欄の計算課程を見ると、その考え方が真っ向から否定されていることに気づきます。税務署は相続人が所有している全流動資産(預金・換価が容易な財産)を相続財産(現預金及び換価が容易な財産)に加えて現金を用意することを義務づけています。ただし、月額の生活費や被相続人の葬儀などの必要経費は認めてあげましょうとも言っています。
C欄は延納許可限度額でA-Bの金額となります。相続税額から用意できる現金を差し引いた額となります。
D欄はB欄と同様に裏面の欄を埋めることにとって自動的に計算されます。ここでの注目点は相続人(物納申請者)の収入です。給与収入や不動産収入のある人は継続して収入があるわけですから、相続税を分割して支払えるはず(延納)と税務署は主張しています。したがって、相続時に賃貸マンションや賃貸アパートなどを相続している人もしくは一定以上の給与を得ている人等は現金で相続税を納付しない場合には、延納を利用せざるをえなくなってきます。
E欄は物納許可限度額です。C欄(延納許可限度額)-D欄(延納によって納付できる金額)で計算された金額です。この欄が意味することは、相続人が用意できる現金を拠出し、次に分割(最長20年間)で相続税を支払い、それでも支払いきれない金額がある場合にはその金額は物納申請して良いですよ、ということです。
税制改正によって、物納という手法をとることは極めて難しくなったことをご理解いただけたと思います。
しかし、遺産分割の方法や相続財産の状況によっては、物納を使用できることが可能です。当社は平成21年に関東某県の相続人の依頼を受けて、相続税2億1千万強の全額の物納申請に成功しています。そして、物納申請後に売却をして現金納付した不動産を除いたすべての財産(土地、建物、自社株式)を収納してもらいました。